うすももいろの空





 

もう直ぐ駅に着く。
がたたん、がたたん。 誰が開けたのかいつの間にか車内に早春の風が入り込み、私の前髪を揺らしていく。

 その柔らかな空気は、久し振りに降り立った小さな駅で一層強く私の身体を包み込んだ。

 私のバックの中には一通の葉書が入っている。
なんて事の無い事務的な同窓会のお知らせの葉書。

 正直どうしようか暫く迷っていた。
仲のいい子もいたけど最近は全く連絡も取っていなかったし、仕事も溜まっていたし。
別に来なくても良かったのだ。
でも、一応出席の返事を出し、出したからにはドタキャンはまずいかと自分に言い聞かせて電車に乗った。・・・ただ、それだけ。

 賑やかなのは駅前だけで、少し歩くとあるのは四角い同じ様な家と 時たま申し訳程度に覗いている畑。
(私が引っ越す時はもっといっぱい緑があったのに・・・)
そんな事をぼんやりと考えながら昔通っていた中学校へとゆっくりと歩みを進める。

 遠くから小さな女の子の声がした。
別に珍しくも何とも無い、何処にでもいる小さな女の子の声。
でも、私は振り返っていた。
そして、そこにはあなたがいた。

白い壁のアパート。階段を下りようとする女の子を慌てて抱上げる、その横顔に一瞬目を奪われた。
 ・・・後ろには可愛らしい女の人。

私は小さく息を付く。
そっと、そっと。

 私が勝手に片思いをしていただけで、それすらあなたは知らない事の筈。
ただ「今日は」と笑って言えばいいだけなのだ。それだけで済むのに。
なのに何故こんなに顔を合わせたくないのだろう。

別に今でもあの人のことを思っているわけではないし、当然あの奥さんを見ても何の感情も起きない。
 純粋に「幸せなんだな」と思えた。
なのに。

 私は女の子の声とあなたの声を背中で聞きながら少し早足で歩く。
追い付かれたくは無い、顔を見られたくは無い。ましてや話なんてしたくない。

 さっき、ホームに降り立った時より冷たい風が、およそ明るい色とはいえないコートの裾を捲り上げながらすり抜けて行く。
コンクリートの壁からはみだしている木々が、花が無いのを悲しむように風に合わせて泣き声を上げた。

 何でこんな事を考えているのか判らない。いつもの私はもっと前向きな筈だ。

 ふと気が付くと以前には無かった小さな公園が目に入った。寒空の中ぽつんと浮き上がっているように見える。
少し戸惑ったが、誰もいないのをいい事に足を踏み入れた。
小さいブランコに乗ってみる。
低すぎて不安定で、思わず鎖に強く掴まるとその冷たさに体中が冷えてしまいそうだった。

 ゆっくりと足をつけたまま前後に揺らしてみる。
(何だか悲劇のお姫様になったみたい。)
そんな風にも思えて、漸くくすりと笑えた。

 何時までもだらだらと付き合っているあいつが見たら笑うだろうか?
それとも暗いと嫌がるだろうか?
何にしてもこれが私なのだ。

 以前住んでいた土地や通っていた学校、友達、初恋・・・
そんなものが全てに於いて気恥ずかしく、そしてそれはあまつさえ今の自分に自信が無いからに違いなく・・・

 「情けないなぁ・・・」
そう声に出して呟いてみる。
思っていた以上に白い息が目の前に現れ、そして跡形もなく消えた。

 どの位そうしていただろう。
楽しげな声がしてふと我に返る。

 そこにはあの人の家族が砂場で遊び始めていた。
あの人はもう同窓会に行ったのだろう。
砂をおもちゃのバケツに一所懸命入れている小さな手が可愛らしい。
私は無意識に微笑み、立ち上がった。

 何事もない様に二人の傍をすり抜け、歩き出す。
来た時よりも足取りが軽いのが自分でも判る。

こんな私のままで昔のみんなに会うのは止めよう。
もっと、自分に自信が持てるようになってから改めて来よう。

駅に向かう私に、来た時と違う景色が目に映る。
そう。見る角度が違う、それだけで景色でさえ違ってしまう。

さっきは気付かなかった桜の花を駅の向こうに見つけ、眼を凝らした。
凝らしすぎて少し染みる程に。


   ・・・ぼんやり、空が薄桃色に見えた。




おしまい♪



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